人を増やしたのに仕事が回らない会社が見直すべき、組織づくり5つの視点

「人を増やしたのに、思ったより仕事が回らない。むしろ、自分が忙しくなった気がする」——年商1〜5億円規模、従業員が5〜20名ほどに増えてきた成長期の経営者の方とお話ししていると、こうした声をよく耳にします。

売上は伸びている。けれど、人が育たない、任せられない、採用しても定着しない。

事業の成長に、組織づくりが追いついていない状態です。

今回は、成長期の組織づくりでつまずく理由をひもときながら、人が育つ会社が押さえている5つの視点を整理します。

もしかしますと、「そもそもなぜ会計事務所が『人と組織』について語るのか?」と不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。

それは、私たちが日々、数字を通して経営者の意思決定に伴走するなかで、経営課題を深掘りしていくと、最終的に「人と組織の悩み」に行き着く場面が少なくないからです。

数字のことだけではなく組織のことについても、もし気になる点があれば、いつでも私たちにご相談ください。

先に、この記事の要点

  • 「人が育たない」「任せられない」の多くは、資質ではなく”仕組み”の問題。社長の目が届く限界を、仕組みで超える
  • 人が育つ土台は5つ——手放す(権限委譲)/数字を開く/評価を対話に/標準化してから採用/任せて振り返る
  • なかでも「数字を開く」は会計事務所が最も伴走しやすい領域。後半で私たち自身の事務所の実例も紹介します

「人が育たない」「任せられない」の正体は、たいてい”仕組み”の問題

社員が育たない、任せられないと感じるとき、つい「良い人材が採れない」「うちの社員は主体性がない」と、人の側に原因を求めたくなります。

けれど、多くの場合、本当の原因は別のところにあります。人が育つための”仕組み”が、まだ用意されていないだけなのです。

創業期は、社長がすべてを見て、背中で教えることができました。

少人数なら、それでうまく回ります。ところが人数が増えると、その方法は限界を迎えます。

社長ひとりの目が届く範囲を、組織の規模が超えてしまうからです。

ここで「背中で教える」から「仕組みで育てる」へ切り替えられるかどうか。
これが、成長期の組織づくりの最初の分かれ道になります。

人ではなく、仕組みに目を向ける。それだけで、見える景色が変わります。

成長期に組織がつまずく、3つのパターン

多くの成長企業は、次の3つのどれかでつまずきます。

いずれも自然に通る道で、責めるべきものではありません。ただ、放っておくと成長そのものの足かせになります。

  • 採用頼みになる:人が足りないと感じると、すぐ採用に動く。けれど受け入れと育成の土台がないまま人を増やすため、教える負担だけが増え、また辞めてしまう。
  • 社長がボトルネックになる:重要な判断や仕事が、社長と一部の人に偏る。任せられないので、社長自身が組織の目詰まりの原因になる。忙しさの正体は、ここにあることが多いものです。
  • 育成が場当たりになる:「見て覚えろ」に近いOJTだけで、育て方に基準 がない。だから人によって育ちにムラが出て、再現性が生まれない。

心当たりのある項目が一つでもあれば、それは組織が次の段階へ進むサインだと捉えてよいと思います。

人が育つ会社に共通する、5つの視点

ここからは、具体的にどう手を打つかという話です。

私たちが経営者の方々と一緒に確認しているのは、おおむね次の5つの視点です。それぞれに「はじめの一歩」を添えました。

1. 社長が「手放す仕事」を決める
権限委譲(判断の権限を人に任せること)は、性格ではなく設計の問題です。任せる範囲を明確にするほど、任された側は動きやすくなります。
→ はじめの一歩:社長の1週間の業務をすべて書き出し、「自分でなくてもよい」に印をつける。印のついた仕事が、最初に手放す候補です。

2. 数字を開いて、判断の基準を共有する
社員が経営者と同じ判断をできないのは、多くの場合、判断に必要な情報を持っていないからです。会社の数字を一定の範囲で共有する(オープンブック経営)と、社員は「なぜその判断なのか」を理解し始めます。数字は、社内で最も誤解の少ない”共通言語”です。
→ はじめの一歩:まずは月次の売上と粗利を、チームで一緒に見る場をつくる。(この視点は、この記事のいちばん大事な部分です。次のセクションで、私たち自身の実例をお話しします)

3. 評価を「査定」ではなく「育成の対話」にする
育成を目的にするなら、評価は成長の出発点です。「いまどこまでできて、次に何を目指すか」を一緒に確認する対話に変えると、評価の時間が人を伸ばす時間に変わります。
→ はじめの一歩:評価面談の中心の問いを、「何点か」から「どこまでできて、次に何を目指すか」に変える。

4. 採用の前に「任せられる状態」をつくる
人が足りないと感じたら、採用に動く前に、いまの仕事が「引き継げる形」になっているかを確かめます。属人的なまま人を増やしても、教える負担が積み上がるだけのことがあります。
→ はじめの一歩:いちばん属人的な仕事を一つ選び、手順を書き出して”引き継げる形”にする。

5. 育つのを待つのではなく、育てる場を用意する
人は、少し背伸びする役割を任されたときに最もよく伸びます。任せて、振り返る。この繰り返しそのものが、育成の場になります。育成とは、特別な研修ではなく、日々の仕事のなかに設計できるものです。
→ はじめの一歩:少し背伸びする役割を一つ任せ、週に一度、短く振り返る時間をとる。

私たちの事務所でも、数字を開いています

偉そうに5つの視点を挙げましたが、私たち自身、いまも試行錯誤の途中です。

そのうえで、いちばん手応えを感じているのが、2つめの「数字を開く」ことでした。差し支えのない範囲で、実際に取り組んでいることをお話しします。

私たちの事務所では、月次の損益を社員に開示しています。事務所にいくら入って、何にいくら使い、いくら残ったのか。

さらに、そこで生まれた利益を、賞与の原資としてはっきり示しています。「この利益が、みんなの賞与につながる」と、具体的に結びつけるのです。

すると、何が変わったか。

いちばんの変化は、社員の「数字へのこだわり」です。以前は経費や生産性を「所長が見るもの」と捉えがちでしたが、一つひとつの支出や仕事の段取りを、自分ごととして考えるようになってきました。

そして何より、「なぜ、これをやらなければいけないのか」が、数字を通して伝わりやすくなりました

言葉で百回説明するより、一枚の損益計算書のほうが、すっと腹に落ちることがあります。数字は共通言語だと、私たち自身が実感しています。

もう一つ、思いがけない効果もありました。月次決算が、早く締まるようになったのです。

いまでは第3営業日には月次を締めていますが、数字を開く前は、経費の精算が遅れたり、勤怠の入力が間に合わなかったりと、締めが後ろへずれがちでした。

数字が「自分たちのもの」になると、一人ひとりの動きが自然と早くなります。
そして月次が早く締まるほど、経営判断も早く打てるようになります。

もちろん、どこまで開くかは会社ごとに違ってよいと思います。粗利までにするのか、人件費や役員報酬はどう扱うのか。段階があります。

大切なのは、開くこと自体より、「開いた数字で、社員に何を考えてほしいか」を先に決めておくことです。

ここは、私たちが最もお役に立てる部分でもあります。

よくある誤解——「良い人を採れば解決する」わけではない

ここは、少し踏み込んでお伝えします。組織の悩みには、根強い誤解がいくつかあります。

  • 「エース級を採れば組織が変わる」は危うい。受け入れる土台がなければ、優秀な人ほど早く見切りをつけて去っていきます。まず土台、それから採用です。
  • 「理念やビジョンは後回しでいい」も逆です。人が増えるほど、判断の拠り所——何を大事にする会社なのか——が必要になります。増えてから慌てるより、早いうちに言葉にしておきたいところです。
  • 「育成は時間がないからできない」——実は順序が逆かもしれません。任せていないことが、社長の時間を奪っている。手放すことが、育成の時間を生み出します。

いずれも「間違い」というより、「順番と土台の問題」です。気づいたときに整えれば、遅すぎることはありません。

まとめ:組織づくりは、社長が少しずつ主役を降りていく過程

成長期の組織づくりは、突き詰めると、社長が少しずつ主役の座を譲っていく過程です。

長く現場を引っ張ってきた方にとって、これは寂しさを伴う変化かもしれません。

けれど、会社が社長の器を超えて育つ道は、そこにしかありません。

社長が「自分がいなくても回る」状態をつくることは、会社を手放すことではなく、会社を次の段階へ押し上げることです。

そして、ここが大切な点です。

「手放す仕事の棚卸し」も、「評価の基準づくり」も、「仕事の標準化」も——たどっていくと、どこかで必ず”数字”に行き着きます。誰の仕事がどれだけの成果を生んでいるのか、何にコストがかかっているのか。

試算表という共通言語を日々扱う私たちは、この土台づくりに最も伴走しやすい立場にいます。

私たちは、数字を”経営者と社員の共通言語”に変えることを通じて、人が育つ組織づくりに伴走しています。

この記事のポイント

  • 「人が育たない」の多くは資質ではなく仕組みの問題。社長の目が届く限界を、仕組みで超える
  • 人が育つ土台は5つ——手放す(権限委譲)/数字を開く/評価を対話に/標準化してから採用/任せて振り返る場をつくる
  • なかでも「数字を開く」は会計事務所が最も伴走しやすい領域。組織づくりの核心は、社長が「自分がいなくても回る」状態を勇気を持って目指すこと

人と組織の悩みも、数字と一緒に整理してみませんか

人や組織の悩みは、切り分けが難しく、一人で抱え込みやすいテーマです。

「どの仕事から手放せばよいか」「何を社員と共有すべきか」——頭では分かっていても、最初の一歩に迷うものです。

当事務所は、経営者の壁打ち相手として、数字と組織の両面から現状を整理するご相談を承っています。

「人を増やしたのに仕事が回らない」「社員に任せたいが、どこから手を離せばよいかわからない」

そのような場合は、まず試算表や月次の数字を入口に、現在の業務・役割・判断基準を一緒に整理することができます。

組織づくりに悩まれている経営者の方は、お気軽にご相談ください。


※本記事は、一般的な考え方に基づく整理です。組織づくりの最適な進め方は、会社の規模や事業の状況によって異なります。具体的な進め方は、当事務所までお気軽にご相談ください。