後継者がいなくても、その「のれん」は残せます。M&A仲介コストを抑える「専門家活用枠」の現実的な活用法
【バトンを渡す相手は、家族だけとは限りません】
こんにちは、公認会計士の塙 健一郎です。
1月も半ばを過ぎ、文京区の朝も冷え込みが厳しくなってきましたね。
先日、湯島天神へ立ち寄った際、合格祈願の絵馬がずらりと並んでいるのを見て、目標に向かう人々の熱意に改めて背筋が伸びる思いでした。
さて、私たち経営者にとっての「ゴール」の一つに、事業承継があります。
「うちは息子が継がないと言っているから、私の代で終わりかな…」
新年会の席などで、そんな寂しい言葉を耳にすることがあります。
長年育てた会社や、信頼してくれている従業員、そしてお客様。
それらを守りたいけれど、後継者がいない。
そんな時、有力な選択肢となるのが「第三者への承継(M&A)」です。
「M&Aなんて大企業の話でしょ?」
「仲介手数料が高そう」
と思われるかもしれませんが、実は今、そのコストを国が支援してくれる制度があるのをご存じでしょうか?
M&Aの手数料負担を軽減!「事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用枠)」
M&Aは今や、町のパン屋さんや町工場でも当たり前に行われる「事業存続のための戦略」です。
しかし、安全なM&Aを行うために専門家(仲介業者やFA)を頼むと、どうしても手数料がかかります。
そのハードルを下げるのが、事業承継・引継ぎ補助金の「専門家活用枠」です。
今回は、ニュースなどでも少し複雑で誤解されやすい「補助金額の計算方法」について、一般の中小企業様の実態に合わせて正確に解説します。
1. 補助上限額はいくら?(最大950万円の仕組み)
この補助金の上限額は、「基本額」に「実施する内容(オプション)」を足し算して決まります。
よく「賃上げが必要なのでは?」と混同されることがありますが、この「専門家活用枠」に関しては、賃上げは上限額引き上げの条件ではありません。
多くの中小企業様が該当する、現実的な計算式は以下の通りです。
【補助率】
- 1/2 ~ 2/3(※赤字企業などの条件により変動します)
【補助上限額の加算シミュレーション】
| 内訳 | 金額 | 内容 |
| ① 基本上限 | 600万円 | M&A支援機関への手数料など |
| ② DD費用加算 | +200万円 | デューデリジェンス(買収監査)を行う場合 |
| ③ 廃業費用加算 | +150万円 | 廃業・店舗整理などを併用する場合 |
| ★ 合計上限 | 最大 950万円 | ①+②+③の合計 |
つまり、しっかりとした調査(DD)を行い、廃業費用も併せて申請する場合、最大で950万円まで補助上限が広がります。
(※買い手が「売上高100億円達成を目指す」といった特殊な大規模成長要件を満たす場合はさらに上限が上がりますが、まずは上記の950万円を目安にお考えください)
2. ここが重要!「失敗した時」のリスクの違い
この補助金には、売り手と買い手で「M&Aが成約しなかった場合」の扱いに大きな違いがあります。
- 買い手(譲り受ける側)のメリット
交渉が進み、デューデリジェンス(買収監査)まで行ったものの、最終的に破談になってしまった…。
そんな場合でも、DD費用については補助の対象となります。
「リスクを恐れずにしっかり調査しなさい」という国からのメッセージですね。 - 売り手(譲り渡す側)の注意点
逆に売り手の場合、M&Aが成約しなかった(基本合意に至らなかった)場合は、着手金などの経費は補助対象外となってしまいます。ここが非常に重要です。
3. 「登録専門家」の活用が必須です
この補助金を使うためには、中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」に登録されている専門家(仲介業者やFA、私たちのような士業)に依頼する必要があります。
誰に頼んでも良いわけではないので、ご注意ください。
【必ずご確認ください】本記事は、執筆時点(2026年1月)の公募要領に基づき作成しています。
補助金の制度要件(対象となる経費、補助率、上限額など)やスケジュールは、公募回ごとに変更される可能性があります。
申請をご検討の際は、必ず最新の公募要領(中小企業庁・事務局の公式サイト)をご確認いただくか、当事務所まで直接ご相談ください。
【編集後記】
M&Aは「身売り」ではなく、「未来へのバトンタッチ」です。
「知らない会社に売るのは怖い」
そのお気持ち、よく分かります。
だからこそ、私たちのような専門家が間に入り、相手企業の財務状況や風土が合うかどうかを見極める(デューデリジェンスする)必要があるのです。
今回ご紹介した補助金は、そのための「安心料」を国が負担してくれる制度とも言えます。
もし、「畳むしかないかな」と迷われているなら、決断する前に一度、事務所にお越しになりませんか?
補助金の細かい計算は私たちがします。
まずは社長が「本当はどうしたいか」、その想いを聞かせてください。
従業員の方々やご家族にとって一番良い形を、一緒にレゴでも組み立てながら考えましょう。


